日付変更線 (story5)

前号までのあらすじ

(南の島で偶然に出会った

ふたりは島の小さなレストランで

落ち合う

僕はジェニファーと語らい

そしてなんとなく好きなのかなと

思うのだが

彼女の意思も確認しないまま

帰国する

そして、いつもの日常が戻ったのだが…)

東京へ戻って半年が過ぎた

僕は相変わらず

来る日も来る日も原稿に追われ

夕方になるとぐったりとして

以前と同じように

ビールを口にしていた

季節は初夏に変わっていた

僕がこの業界へ入ったのは

大学卒業と同時だが

最初にいた職場では

営業枠採用だった

制作希望だったのだが

夢は叶わず

最初は得意先回りから教えられ

次第に新規開拓へと移った

このときだったと思う

大きな競合プレゼンの機会が与えられ

僕らのチームはそれを勝ち取ったのだが

このとき

良くも悪くも

僕の考えたコンセプトが採用されたのだ

が、結果的に

このことで僕と制作の連中との間に

溝ができてしまった

両者のしこりは残り

僕はそれを機にその会社を辞ることにした

そして、制作の人間として

改めてこの会社へ入ったのだ

元々

希望は制作だった

だから最初の会社でも

転職の機会は伺っていたし

営業職の枠を越えて

制作過程にはいつも目を凝らしていた

会社の帰りには学校に通い

専門のカリキュラムも受けていたので

自分なりに自信はあったが

やはりここへの転職も

それなりに難関だった

現在の会社は

どちらかというと制作に重点を置いていて

社内には5チームからなる制作チームがあり

僕は第3チームで

主に百貨店を担当していた

いまは夏のバーゲンを見据えた制作で

チームがまるごとオーバーヒートしている

僕はいつものようにため息をついて

窓の外に目をやる

(今日も徹夜だ)

青山通りは相変わらず

この時間になるとクルマが溢れ

どこもノロノロ運転のようだ

僕はクルマの流れと喧噪を突き放すように

今日も島でのできごとを

反芻していた

デザインチーフの間島が

相変わらず気むずかしい顔をして

若手に檄を飛ばしている

で、僕と目が合う度に

「お前、やる気あるのかよ?」

という目をする

僕は前々から用意しておいた封筒を

引き出しの一番奥から取り出す

そして決意は固まっていたので

いよいよ席を立ち

役員室へと向かう

長い通路を

僕は颯爽と歩く

二度ほどしか入ったことのない役員室のドアの前で

僕は軽い咳払いと深呼吸をして

ノックをする

ここの制作責任者の岡田部長は

この業界では知らない者はいないという人だが

ホントはどういう人か

僕はいまだに知らなかった

それはコピー年鑑で彼の作品を見ただけで

この会社へ入ってからも

ほぼ彼とは口を聞いたことがない

職場の連中はよく仕事に行き詰まると

彼に相談に行くらしいが

僕には縁遠い人だった

ドアを開けると

彼はデスクに足を投げ出し

僕がいま担当している百貨店のデザインラフに

目を通している最中だった

「何?」

「はあ、あのこんな時期に唐突なんですが…」

と続けて、僕は退職願いを彼の足元へ差し出し

辞める意思を端的に話した

岡田部長は不敵な笑いを浮かべ

「そうか」と言い

相変わらずラフに目を通していた

「で、これからどうするの?」

「いや、あまり深くは考えてはいません」

「いるんだよね、そういうの

君もそのタイプだったんだ」

岡田部長は

後ろの壁に貼ってあるスケジュールに目をやり

おもむろに受話器をとると

人事課に繋いだ

その姿は彼独特の横柄さが滲み出ていた

僕にとっての緊張の時間が続く

人事とのやりとりが数分続いた

岡田部長は

「あーぁ」と言って僕の顔を見ては

薄笑いを浮かべる

その表情はふて腐れているようにも見えた

受話器を置くとおもむろに

「基本的にOK

なんとかなるようだね」

と僕に告げた

「ありがとうございます」

僕は丁寧に頭を下げ

いま来た廊下をゆっくりと噛みしめながら歩いた

(つづく)

日付変更線 (story4)

前号までのあらすじ

(島でエンジントラブルの

僕を助けてくれたジェニファーと

食事の約束を取り付けたのはいいが

バイクを借りたホテルのボーイから

意外な話が…

それは彼女にまつわる

雑多な話題なのだが…)

昼間の熱気が籠もった車内

僕は窓を全開にして

南へクルマを走らせる

遠くのリーフから

珊瑚礁にぶつかる波が夕日に光る

島の突端に

確かにカープレストランはあった

レストランと言っても

古い船を改造した停留船であり

道路沿いにはちっちゃなネオンひとつしかない

打ち寄せる波に揺れた階段を降りて

船内へ入ると

窓際のテーブルにジェニファーが座っていた

彼女が振り返る

ブルーの縦縞のワンピースが揺れ

初めて彼女が微笑んだ

「ハーイ」

「先に来ていたんだね、今日は来てくれてありがとう」

先日とは打って変わって

彼女は女性らしい仕草で僕を迎えてくれた

「そのワンピース、似合うね?」

「ありがとう」

笑顔がこぼれる

二人で

フィッシュチップスとココナッツジュース

バドワイザーとピザを注文すると

ジェニファーが

夕陽が素敵なのよと

船窓のガラス越しに外を指さす

僕もつられてのぞきこむ

水平線がきらめいて

遠い島々が夕陽に照らされ

それぞれがシルエットになって

影絵のように揺らめいている

「サンセットはいいね」

「ええ、わたしはこの島の

この時間が好き。ここの夕陽は

フロリダもかなわないのよ」

ブルーのワンピースが

夕陽のオレンジ色に照らされて

不思議な彩りをみせた

彼女の揺れるようなまなざしも

憂いに満ちているように光る

「アメリカに帰りたい、のかな?」

「えっ、何て言ったの?」

「いや、今日のジェニファーは素敵だねって」

「そう、ありがとう

あなたは、そう、まあまあね」

ジェニファーがケラケラと笑う

僕は彼女に

先日のお礼を丁寧に伝える

そして僕の仕事が

ジェニファーと同じ広告関係と知ると

彼女はとても驚き

人は見かけによらないわね、とまた笑う

船窓の向こうは次第に暗くなり

ふたりは店の飾り付けを眺めながら

島のたわいない話をする

ビールをジンに変え

私も飲むわと彼女が言った頃には

港に浮かぶブイの蛍光塗料だけが光って見えた

フォークでヌードルを啜っていた

外人の団体さんも帰り

店内はふたりだけとなった

そして僕たちは

日本とアメリカの広告表現について

話が盛り上がっていた

彼女がコカコーラの日本でのプロモーションを

聞いてきた

が、僕はふいにそれを遮って

例の話を切り出してみた

「で、彼氏は元気なの?」

「ええ、元気よ!

あの最低の彼ね」

ストレートな物言いだった

「ジェニファーの言う最低の彼って

一体どんな奴なんだい?」と僕

「うーん、そうね。規則をしっかり守る

誠実な人ってとこかな」

「それが最低?」

「そう、最低」

「ふ~ん」

僕とジェニファーは

それからジントニックを3回注文し、

すべてそれを飲み干した

「このジントニック、ジンが少ないわ」

とジェニファーが言う

「いや、かなり酔いが回ってきているぜ」

「あら、あなたサムライじゃないの?

サムライはサケに強いと聞いたわ」

「僕はサムライじゃない、

僕はね、根無し草なのさ」

ジェニファーがケラケラと笑う

ふたりはそれからニューヨークアートや

やはり広告の話に戻り

クリエイティブに関することで

話が長々と続いた

彼氏に関する話題は

例の彼女の一言で終わっていた

カウンターの横にあるジュークボックスにコインを入れ

僕とジェニファーは曲を探す

「ここはやはりクラプトンね?」

「いや、サンタナだな」

「クラプトン聴きたいわ」

「しょうがない、譲るか」

店内に「Change the World」が流れ

片付けが終わったマスターが

踊ったらと、笑いながら目で合図をする

僕はジェニファーの手を取り

彼女を誘う

メローな音に酔うように

彼女がステップを踏む

そして彼女が語りかける

「あなたは、あまり規則なんか関係なさそうね?」

「規則?

規則は守るためにある!

いや、破るためかな?」

彼女がまたゆっくりと微笑んだ

「君は笑っている方がいいね」

「そう、ありがとう」

店を出ると何もかもが見えない程に暗く

港に浮かぶブイだけが光っていた

「今日は新月、おまけに曇りね」

「どうりで何も見えない。けど、新月は

ものごとの始まりを意味する。

僕らはどうだい?」

彼女はそれには答えず

僕に近寄る

そして

ふたりはずっとキスした

(つづく、かも…)

物語の途中で詩を思いつきまして…その3

「チャイナタウン」を聴きながら

そのひとは

手と足が細く長かった

確か

薄い紫色のワンピースを着ていた

元町から朱雀門へ続く通りを

あなたは歩いていて

僕は友達との話を遮り

あなたにみとれた

そしてその日はなぜだか

とてもリラックスして

なんの邪気もなく

自然にとても普通に

あなたに話しかけ

これは逃せない出会いと直感し

僕は丁寧に自己紹介し

それが嘘くさく

あなたもそれを見抜いていて

ふふっと笑って

だけどなんとか僕たちは友達になれて

何度か会うようになった

あたなはたまたま遠くから

このヨコハマに来ていて

ヨコハマが好きだと言ってたっけ

あの店で僕たちが待ち合わせしたのは

確か3度だったように思う

あなたは僕より年下なのに

すでに手に職をもっていて

よく人となりをみていて

社会を語り

仕事の喜びを

僕に話してくれた

僕はあれからいろいろあったけど

あなたは逃れられない病を背負っていて

ふたりはお互いを忘れ

全く違う場所で

全く出会わない世界で生きていて

あれから浦島太郎のような時が流れて

僕は最近になって

よくあなたのことを想い出す

夏になると

あなたがいまでも

あのワンピースを着ているような…

あの夏のヨコハマ

雑踏に揺れる街

もう会えないけれど

ただ

元気でいてくれたら

そして幸せだったら

と思うのですが…

日付変更線 (story3)

前号までのあらすじ

(南の島で、バイクが
エンジンストップ!

ホテルまではもう少しなのだが
辺りはみるみる暗くなってくる始末

僕は途方に暮れる

そこに1台のピックアップトラックが
現れて僕は救われる

助けてくれたドライバーのジェニファーは
美人だ

僕は彼女を島のレストランへ誘い
OKを取り付けた)

ホテルの内庭に入り

バイクの持ち主の島のボーイを呼んだ

「やはりトラブルか」

彼は笑いながら、この故障はしょっちゅうだし

今度直そうと思っていたことを

話してくれた

「申し訳ない」

彼に素直に謝ると

そんなことはどうでもいいじゃないかと

言ってくれる

お礼になにかおごるよという僕の申し出に

じゃあ飯でも食わないかと言う

「OK、そうしよう!」

彼は興味深い話を僕に話した

例のジェニファーは、もうかれこれ1年も

この島にいるらしい

そして、ジェニファーを追いかけてきた彼というのが

サンディエゴでも指折りの弁護士だったこと

しかし、いまは仕事もリタイアし

ふたりでこの島暮らしだが

そろそろ彼氏の方が

国に帰りたがっているというのだ

僕はボーイに笑って返した

「そりゃそうだろう、この退屈な島に

そんな奴がいつまでも居られる訳ないよ」

しかし、話はその後が面白かった

ジェニファーは、元々ニューヨークの出身で

バリバリのキャリアだったが

勤め先の広告代理店で大きなヘマをやらかし

サンディエゴへ飛ばされた

で、

失意の彼女をあるパーティーで見初めたのが

彼だったらしい

そして、付き合い始めたのはいいが、

彼の几帳面過ぎる性格を知ったジェニファーは

奴に嫌気がさし、

最後はノイローゼ寸前だったらしいと言うのだ

その彼女を追いかけてきたのかい?

「そういうこと」

ジェニファーも辛いだろうね?

「彼は必死さ、しかし、もうそれも限界らしい」

「ふーん、その彼女と明日約束を取り付けたぜ」

「どこで?」

「島の突端にある、カープレストラン」

「大丈夫なのか?」とボーイ

「何が?」

「彼氏さ」

「関係ないでしょ、オレは彼女に

お礼がしたいんだ、それだけさ」

翌日は、朝からコテージに閉じこもり

じっと内海を見ていた

海面に一筋の線がすっと表れて

何かが泳いでいるようにもみえる

ガイドのポポが言うには

あれは魚ではなく

ワニだという

「海であんな奴とは出会いたくないなぁ」

「大丈夫だよ、ここのワニは人は襲わない」

「そう…そうだった」

つい先日の会話を思いだしていた

陽射しの傾く頃に、僕はようやくシャワーを浴びる

海からの夕風が気持ちいい

ブルーのポロシャツとコッパンに着替えると

パスポートと現金とキーを手に

コテージを出る

階段を駆け下り

天井から羽根が回る

いかにも南国というような建物に入り

フロントにキーを預けて庭に出ると

予約してあったTOYOTAの小型車で

コロールへと向かった

(つづく)

物語の途中で詩を思いつきまして…その2

「WORLD ORDERを聴きながら」

ウチの親父は元サラリーマンで

朝は毎日6時にピタリと起きて

同じ味噌汁の具に飯を一膳半喰うと

7時20分のバスに乗って会社へ出掛け

たまの休みの日には釣りへ行き

そうだったね、

黒縁のメガネが似合っていたねって

最近お袋に話たら

あれはね、他の女のお気に入りだったのよって

ふ~ん、なんだい? それって

その頃の日本は景気が良くて

親父は会社の金を握っている立場だったので

寿司屋の折り詰めをよく持って帰って

「貰ったゾ、また貰っちゃった」ってね

でね、

僕の叔父はね

元商社マンでとてもカッコ良かったんだけど

いつも世界の何処にいるのか分からない

いまロンドンだよとか

ニューヨークにいてねとか

電話をかけてきて

帰国すると必ずウチに寄って

いろいろなおみやげをくれたけれど

あるとき叔父がお袋の前でボロボロ泣いてて

それで突然会社を辞めて

叔父は奥さんと別れて

世界放浪の旅とやらへ行っちゃってね

いまは生きているんだか死んじゃったんだか

全くの行方知れずで…

それで僕は思うんだけれど

なにが嘘か真実なのか

いまも分からないけれど

とりあえずは働いて

金を貯めたら

この日本を出ようと…

それが良いのか悪いのかはどうでもよくて

全く違う価値観の人たちと

まだ日本人が知らない場所で

ただゆっくりとした静かな時間のなかで

自分の仕事をつくって

自分をみつめようと

それはね

本当の自分の姿がみえる

そんなところで

真実の声が届くような時間のなかで

じっくりと暮らしたいなと…

物語の途中で詩を思いつきまして…

「ジャミロクワイを聴きながら」

僕らはいつも

タフに動き回り

利口に立ち回り

この世界の文明とやらを享受して

生きているけれど

一体いまのこの状況って

なんなんだい

僕らはとっくに気がついていて

僕らはとっくに知っていて

狂気の沙汰のこの時代に

唾を吐いても

笑われるだけだし

狂気の沙汰のこの国に

ものを申しても

捕まるだけさ

まあ

僕も相当慣れたけど

そして

君もそのようだし

だけど

もう誰も戻れないよ

もう人は帰れないんだ

狂った空間

イカれた世界

今日も君とデートだね

例の地下街にでも行ってみるかい

狂った奴らがうごめいて

虫やら何やらを頬張って

そして

笑って

踊っているだけさ

だから

僕たちはいつも

タフに動き回り

利口に立ち回らなくては

いけないんだ

日付変更線 (story2)

前号までのあらすじ

(南の島で、僕のHONDAのバイクが
山の中でトラブルを起こし
エンジンストップ!

ホテルまではもう少しなのだが
辺りはみるみる暗くなってくる始末

あきらめかけた僕は仕方なく
星空を眺めるハメに…)

ジャングルから遠吠えのようなものが

聞こえてくる

近くの木がガサッと揺れる

やはりのんびりとはしていられないのだ

再びバイクにまたがりキックを開始する

ひとつひとつのキックに祈りを込め

それは30回程も続いただろうか?

と、突然クルマのライトが近づいてきて

僕の横に止まった

今日初めての対向車だ

ダットサンのピックアップトラック

運転席から、若い白人の女が顔を出す

「どうしたの?」

「トラブルさ」

「動かないの?」

「そのとおり」

女はその高い鼻に指をもってゆくと

目を上に向けて何かを口走っていた

月明かりにその横顔が浮かぶと

かなりの美人だった

「OK、どこまでなの?」

「この先はホテルしかないと思う」

「そうだったわね」

と言って、ため息をつく

「じゃあ…」と言って

女はひとつだけ条件を出した

それはホテルの300㍍手前でバイクも僕も降ろす

という条件だった

「OK! それより空が綺麗だ

一緒に眺めないか?」

「あのね、私はいま急いでいるの!」

「分かった分かった」

荷台の板を引きずり降ろし

バイクを力いっぱい押す

荷台の上で

女がHONDAのステーを掴んで

引っ張り上げる

やはり白人の女は力がある

と思った

僕がHONDAを押し上げると

「もっともっとパワーを使え」

とほざいている

程なくして、ふたりは

滝のような汗まみれになる

ようやく荷台に収まる頃には

なんだが目と目の合図に

違和感もなくなっている

「ありがとう!」

「いいのよ、じゃあ行くわ」

「ちょっと待って」

「なに?」

「感謝の印に、僕に何か奢らせてくれないか?」

僕は髪をかき上げているこの女に

スーパーで仕入れたミネラルウォーターを

渡す

「いやいいわ」

「どうして?」

「当たり前でしょ?

こういうときは誰でも助けるでしょ

それがルールなの

それ以外何もないわ」

こっちを向いた顔が

デビュー当時のジョディー・フォスターに

似ている

「分かっているよ

しかし僕は君に感謝している

ここで朝までいるのはホント

辛いからね

それを救ってくれたのは君なんだ

僕は君に感謝してなにがいけないのかい?」

「確かにあなたの言うとおりだわ」

女は、いや彼女は

ミネラルウォーターを口にやりながら

少し笑顔になった

「OK! じゃあ明日、コロールのカープレストランでどう?」

「いいわ」

「ところであなた、どこから?」

「東京からだよ」

「やはりね」

「なんで分かるの?」

「なんでって、東京で疲れた男は

みんなこの島へ来るのよ」

「そうか、僕もその一人という訳だね」

「そういうこと」

「で、あなたは?いや名前はなんて言ったっけ」

「ジェニファーよ」

「ジェニファーは何故この島にいる?」

「なんでそんなこと聞くの?」

「僕は自然な質問を君にしていると思うよ」

「…」

ダットサントラックのなかで、

彼女はニューヨーク出身で、いまは

彼氏とこの島に来ていることを

教えてくれた

しかもかったるそうに

ホテルの手前と言ったって

真っ暗だ

ふたりでHONDAを下ろすと

彼女は再びトラックに乗り込んで

そっとホテルの入り口に消えた

僕はHONDAを引っ張りながら

ジェニファーの訳ありな言葉の

ひとつひとつを反芻した

(つづく)

日付変更線 ( story1)

島の内海に向いた

急斜面に立つコテージの一室で

僕は冷えたジントニックを飲み干す

冷房が程よく効いた部屋

マングローブの繊維で編み込んだという

ベッドの脇の敷物に寝ころんで

かったるそうに回っている

天井のファンを眺める

昨日チェックインしたとき

フロントの金髪の女性から

電話は使えませんと聞いていた

なんでも頼りの海底ケーブルが

切れたという

聞けば、深海鮫が、

餌と間違えてケーブルを囓ったとのこと。

この先一週間はどの国との連絡も

やりとりもできない

「まあ、好都合だよ」

ホテルの裏に転がっていたHONDAのトレールバイクを借り

僕は、首都コロールへと向かう

とってつけたような「スピード出すな」の標識を無視して

砂利の山道をかっ飛ばす

バベルダオブ島と首都コロールを結ぶ橋を渡ると

少しづつ掘っ立て小屋のような人家がみえる

舗装路に入るとHONDAを一気に加速させ

島で唯一のスーパーにたどり着く

強い日差しはもうだいぶ傾いていた

インスタントラーメンの他

缶詰や簡単な日本食をカゴに放り込み

ジンを2本とコロナビールをケースごとレジへ運ぶ

景気の良さような日本人と見て

レジの女の子が意味深な笑顔で28ドルと

言い放った

「ありがとう」

カートを押してドアを開ける

日差しは弱まってはいるが

ここは南洋だ

HONDAの荷台に慎重に荷物を括り付ける

脇の木陰で犬が腹を上に向けて寝ている

その向こうにも若い男が寝そべっている

南の島では寝そべることは

とても大事な行為だということが

最近になって分かってきた

必死で働いて生き甲斐を得るという価値観は

ここではあり得ない考え方なのだ

みんな自然の摂理に従っている

吹き出す汗を拭くまでもない

キック一発でHONDAは始動し

島の一本道を疾走すると

風が汗を乾燥させ

遠いリーフの白い波しぶきが見えれば

もうここの住人と同じように

振る舞えるような気がした

コロール島とバベルダオブ島は近代的な橋で結ばれ

ここを通り過ぎる頃は家々の明かりがつき始める

バベルダオブのジャングルの中の砂利道に再び入る

辺りはほぼ暗闇だ

唯一偶に設置された電灯と空の月明かりを頼りに

慎重に砂利道を飛ばす

が、南洋神社を過ぎた頃から

アクセルのスロットルとエンジンの回転音に

嫌な感じの誤差が生じ始め

もう少しで下りというところで

エンジンは止まり

いくらキックしたところで

エンジンは回らない

汗が再び噴き出す

今度の汗は冷や汗かもしれないな

と自分に聞いてみたものの

ここではそんな思考はエネルギーの無駄だ

いい加減に疲れ果て

道ばたに座り込んでたばこを咥える

気がつくと回りはしんと静まりかえっている

荷台から水のペットボトルを取り出し

一気に飲み干す

煙でもずっと眺めていよう

日本との時差は一時間だが

ここは南半球だ

日付変更線を越え

南回帰線の近くの小さな島で

空を眺めるのも悪くはない

そう思うことにした

見上げた空は

ちょっと言葉では言い尽くせない

迫力があった

「輝く星座」という歌があるが

僕はあのメロディーとリズムを聴くと

カラダの隅々が

空の彼方に吸い込まれるよな感覚に陥る

その夢のような心地が

いまはリアルに感じられる

僕はそのとき生まれて初めて

煌めく南十字星を見た

(つづく)

続きを読む 日付変更線 ( story1)

徒然日記

先日、日帰り温泉へ行き、なにげに体重計に乗ったら、
あれっ? 知らない間にまた3キロ増えているぞ。
このままではいけない。と思い、
レコーでイングダイエットでもやろうと思い立つ。

レコーディングとは、食べたものをすべてノートする。
これだけ。

私はまだ未体験なのですが、効果はあるらしい。
心理効果ね?

なんとなく、それは分かる。が、面倒だな。
(そこがこのダイエット法のカギです)
で、いまだにやってない。

これに関連して、市役所よりメタボ患者(?)対象の相談会だか
セミナーのお誘いの手紙が届く。

ほっといてくれ!
それでなくともイライラしているのに…

役所は役所らしいことに専念して、もっとスリムな行政やれ!

かれこれ18年の付き合いになる老車ボルボを、この春、車検に通した。

あーぁ、最後の車検かな?

塗装が遣れて、リヤワイパーは数年前よりイカれて動かないし、
8年前にエアコンが壊れたときは2.30万円をふっ飛ばしてしまった。
内張りも弱いので、数年前に張り替えた。

このクルマは、基本的に電気系統が弱いので、
これはしょっちゅう修理。パワーウインドウが動かないとか、バックミラーが取れたとかは、よくある。

いまは、ステアリングオイルが漏れているので、要注意。

でですね、最近思ったのですが、私がこのクルマにずっと乗っているあいだ、知り合いの方は、相当クルマを代えております。

私はタバコも吸うし、ウチはゴミの排出料も多い。が、とりあえずクルマに関してエコなんじゃないかと思いますよ。

ついでにもうひとつ。

クルマとの付き合い方をみれば、女性の扱い方が分かる、とは、
去るお偉い方が言っておられました。

私も同感です。

で、この件を鑑みても、私は女性に対して辛抱強いのではないかと、
内心思っております(涙)

街を歩いていて思うのですが、みんな前を見ていません。
ケータイとかスマフォとかに夢中で、ほぼ神業で歩いております。

私はよける。またよける。が、ケータイを見ながらよける技を身につけた人もおりまして、目が三つくらいあるんじゃないかと思います。

そこに、かっ飛ばしてくる自転車とかいまして、コイツらはバカなので
私もよけますが、本音は蹴飛ばしてやろうか、です。

自転車も、事前の講習とか免許とか、考えたらどうかというのが私の意見ですが、どう?

先日、奥さんにパスモというのを頂きまして、これなに?と言ったら、
遅れているなーという顔で、私に淡々と説明をしてくれるのでありました。

パスモ?そしてスイカ?

なんとなく知っているが分からない。聞けば、これで自販機のコーヒーも買えるらしい。
神奈中バスも乗れる。

で、これも半年くらい前に分かったのですが、Tポイントカードというのを持っていると、いろいろな所で割り引きしてくれるということ。

ツタヤのカードなのでT!なのだ!

私の財布をひっくり返したら、15年前のテレカとか、東京に住んでいたときに通っていた医者の診察券とか、5年前のJAFのカードとか、全然役に立たないものばかり。
イケマセンね?

カヌー初心者なのですが、もう一艇欲しい!

で、ネットオークションで中古をじっと見ていますと、時々あっと驚くものが出品されていまして、いよいよ買っちゃうぞと力んで追いかけていると、当然ほかの皆さんも同じように目を付けておりまして、次第に値段ががんがん上がります。

が、勝負をかけて最後まで競う意気込みもなく、あれよあれよと他の誰かが競り落とし、悔しい思いをしております。

人生の本気以外にパワー不足の私は、こうした競争を見るにつけ、圧倒され、他のことをやり始める誤魔化し方をします。

が、人生の本気に関して、やるかやられるか、とか、瀬戸際では、勝負をします(キッパリ)

ことカヌーに関しては、この体たらくなので、今年も全然メドが立たないのであります。また、時間も余りないので、ホントは四国の四万十川とか行きたいのですが、現実は、せいぜい足を伸ばしても、山梨か静岡止まり。

よーし、リタイアしたら、メコンデルタへ行って、ワニと大蛇を捕まえるぞ!

南回帰線

貿易風の吹く6月の丘に

ハイビスカスの花が咲き

一人の少年が

ずっと海をみつめている

南回帰線の島

椰子の森がざわめき

海鳥は

滑るように飛んでゆく

少年は背筋を伸ばし

立ち尽くす

以前

カヤックを削りだし

夜の沖へ出た

星を見失い

それでも漕いだが

波が荒れて怖くなり

凪が続くと怖くなり

行く先がみえず

島へ引き返した

少年は島を捨てたかったのだ

あの遠い

いつかの旅人が教えてくれた

北の国へ憧れた

北の国には

黄金が眠り

美しい少女と

そして

北の国には

雪が降るという

少年は

島で

いつも船をつくっている

貿易風が彼にささやき

ハイビスカスの花が

彼に寄り添うように

咲く

少年はただ無言で

やがて

絶望を追い払うと

毅然としたまなざしで

海の向こうの希望を

いつまでも凝視した