純喫茶「レア」(その2)

(前号までのあらすじ)

イヤイヤ高校生活におくる俺は、いつものように地元に帰ると息を吹き返す。パチンコ屋、ボーリング場をウロウロして時間を潰す毎日。

俺はつぶやきながら、なあとヒロシを呼び止めた。

「なあ、ヒロシ」

「ああ?」

「あのさ、レアって店、知ってる?」

「ああ」

「あそこ、どうゆうとこよ?」

「純喫茶じゃねえの?」

「純喫茶って何よ?」

「うーん、わかんねぇ」

「コーヒーでものむとこなのかね?」

「わかんねえ」

「バッカー!」

俺はイライラしてきた。

コーラを飲みきると席を立ち
じゃーなとみんなと別れて
再び駅のほうへ向かう。

ポケットの千円札を確かめる。

俺は考えながら歩いた。

駅が近づいてくる。

電車がくる時間だ。

俺はたばこを投げ捨てると、ある迷い事についての腹を決めた。

改札から出てくる大勢の人の顔を見ていると
なんだかアタマがズキズキしてきた。

手のヒラが汗ばんでいる。

遠くのほうから女の子のふたり連れが歩いてきた。
ふざけながら歩いてくるのが分かる。
白いブラウスにプリーツの入った長い紺のスカート。

「来た」と俺は心のなかでつぶやいた。

ふたりは俺と目が合うとふざけるのをやめ、
やがてひとりがこっちへ目配せをして
「うまくやんなよ」と言い
バイバイと小走りに改札を抜けて
エンジンがかかっているバスに飛び乗った。

「よう!」

「待っててくれたの?」

「いや、ちょっと用があったんだけど
時間をみたらなんかさ、いるかなって思って」

「ありがとう」

「いいとこ、あるんだ」

「どこ?」

「うん、最近できた喫茶店なんだけどさ」

「ふーん」

二人はとぼとぼ歩き出した。

本屋の角の脇道を入り、少し行くと
白くまぶしい建物が目に入った。
店の入り口にはお祝いの花がいっぱい飾ってある。

ここか、と俺は思った。

白い壁には銀色の流れるような文字で
「レア」と書いてあった。

つづく

※この話はフィクションです

不思議な一日(その3)

(前号までの話)

ある朝、私は森へでかけた。すると、身長60センチ位の小さな爺さんが水浴びをしていた。彼は自分を森の精霊だといい、私と話し込むこととなった。

「ところで若者よ、街はどんな様子じゃ? 最近はパソコンなんていうものができて
たいそう便利になったそうじゃな?」

「ええ!お爺さんよく知っていますね!」

「いや、この間の夜ちょっと街へ降りて、ヤマダ電機っていう所へ行ってみたんじゃ」

「はぁ、はあ? ヤ、ヤマダ電機ですか? しかもそのカラダの大きさでですか?」

「イヤ、それはない。わしらはカラダの寸法をいくらでも変えることができるんじゃよ」

「それは凄いですね! で、服はそのままですか?」

「それもない。ユニクロじゃよユニクロ!」

「えっ、ユニクロですか?」

「そうじゃ、あそこのフリースは暖かいのう!」

「しかしお爺さん、ここからユニクロに行くまでこの格好で
行ったんでしょ?」

お爺さんはまたアタマをつるっと撫でると

「君という若者はいちいち話が細かいな。そんなことでは
この物語は続かんぞ!」

お爺さんの目がつり上がってきた。

「スイマセン!」

私は話を続けた。

「で、ヤマダ電機で何を見たんですか?」

「そこじゃよ、肝心なのは!」

「ワシがパソコンをじっと眺めていると
店員らしき若者がやってきて、いきなりわしに説明を始めたんじゃよ」

「はあ、それで?」

「それでじゃ、話を聞いているうちにこれは天上界でも使っている
便利箱の初期型と似ておるな、と分かったんじゃよ」

「便利箱?」

「そうじゃ、便利箱。この箱はもうわしが若い頃からあるんじゃが
とても重宝しておる。いまじゃホレ、ここにもあるがなぁ」

お爺さんは腰の布をめくると、一枚の布っ切れを見せてくれた。

「これは何ですか?」

「これが便利箱の進化したものじゃよ」

「はあ?」

「ほれっ!」

つづく

記憶

野辺に咲く花は

何を想う

それが分からないから

私は悲しいのか

空に浮かぶ雲は
何処へ行くのか

私はそれが知りたいのに

誰も教えてくれない

浜辺の波は

なぜ寄せては返すのかと思うのだが

そこに答えなどないと言われると

切なくなる

遠い遠い記憶が

語りかける

私は一体誰なの

あなたはこれから
なにを描くの

だから
くる日もくる日も

私は
途方に暮れる

純喫茶「レア」

高校が終わると、すぐに席を立ち
走って校門を駆け抜ける。

小田急線に飛び乗り、町田で降りると、ため息が出た。

ぐーぐーと鳴る腹に、いつもの立ち食いそば屋で、天ぷらそばを流し込む。

そして、チョーランをはためかせ横浜線で地元に帰る。

駅前でいつもの地元の仲間を見かける。

やっと気持ちが解けてくる。

まだ、時間があるので「キリン」に飛び込んで学ランを脱ぎ

セブンスターに火を付けて、台を見て回る。

別に出ても出なくてもいいのだが、この儀式をしないことには落ち着かない。

玉を打っている時間が本当の自分に戻る為に必要な時間だった。

C・C・Rの「コットンフィールズ」が大音量の割れた音質でがなり立てる。

出なければそれで良し。
たばこを咥えながら
そのまま「シルバーレーン」に歩き出す。

顔見知りに会うたびに「よう!」とお互いに手を合わせる。

「シルバーレーンだろ」と言われる。

通りを曲がると
大きなピカピカの建物が鎮座する。
扉を開けると、ピンが倒れる乾いた音が響いてくる。
中は人の熱気で暖かい。

自動販売機でコカ・コーラの瓶を買い、ふっと一息つく。

プラスチックの椅子に腰掛け、前のカウンターに足を投げ出す。
セブンスターに火を付ける。

ボーリングは俺にとってどうでもいいのだ。

ジュークボックスをのぞいて
100円を入れ、いつもの曲をチョイス。
そして、椅子に戻ってコーラを飲む。

「イエロー・リバー」が流れると
どこからともなく、いつもの顔が集まってきた。

「アキラ!今日は学校行ったのかよ?やけに早いじゃん」

「行きましたよ!」
とおどける。

立ち上がって振り返ると、ヤスが笑っている。
目が充血していた。

「ヤス、やっただろ?」

「何を?」

「ええ、とぼけるなよ! ボンドだよ」

「やってネエよ、なんちゃって」
彼の足元はふらついている。

「あのよ、おまえホント骨ボロボロになるよ!」

ヒロシとカズオにも聞く。

「ヤスさぁ、あのオンナに振られたらしいよ。で
こないだ決めた掟破りっていゆう訳!」

「ああ、そう」

俺は心なく答えると元の場所へ座り込み、前を見た。

4人でボーリングをしているグループを眺めていた。
オトコ二人は髪の毛をキッチリ短く切り
ボタンダウンのシャツにステッチの入ったピシッとしたスラックスを
はいている。
オンナはこれも最近よく見かけるミニスカートに綺麗な色のトレーナーを
着ていた。

「アイビーのにいちゃんとねえちゃんか」

俺はつぶやきながら、なあとヒロシを呼び止めた。

「なあ、ヒロシ」

「ああ?」

「あのさ、レアって店、知ってる?」

つづく

※この話はフィクションです。

バカは死ななきゃ治らないか?

自分のことしか考えない人間
それが私だった

そして俺様といきがる毎日

就職を機に少しは懲りたので
こうした性分も徐々には薄くなったのだが
自己と社会のギャップのなかで
自分は訳の分からない憔悴感に襲われたこともある

結婚という制度に関しても
何の興味もなかった

彼女も年頃だというのに
先をみようとしない
いい加減さと思いやりのなさ

いま
こうゆうオトコが娘とつき合っていたら
即、決闘だ!

いまの私が大嫌いな人間
それがかつての私だった

しかし何故か
流れのようなもののなかで
縁あってか結婚というものもすることとなり
いい加減な新婚生活に突入

その頃
私は仕事に没頭して家庭というものを
意識したこともなく
夢ばかりを追いかけていた

しかし
忘れもしない24年前の今日
私の長男が借金で生まれる(爆!)

看護士さんから
初めて子供を抱かせてもらったとき
赤くて小さくてひたすらギャーギャー泣いている
我が子の重みは
私の人生観を変えた

その日を境に
私は変わった

いや自己中という病が治ったのか?

奥さんに感謝することを知る
新しい命に崇高なものを感じる

そして
彼らを守れるもの
彼らが頼りにしているのは
紛れもなくこの私なんだと
生まれて初めて
自分を差し置いて
ひとのことを想う気持ちになった

人生の前半は「俺」で駆け抜けた
欠点だらけの一人のオトコが考えたこと

自分で稼いで家族を守るということ

そんなことを教えてくれたのが
彼の誕生だった

バカは死ななきゃ治らない
とはよく聞く言葉だが

私はいやいや
そんなことはないと密かに思っている

なにしろ体験者だ

YU、誕生日おめでとう!

人間っていうのも
そうそう捨てたものじゃないぞ!

不思議な一日(その2)

前号のあらすじ)

ある朝、私は森で小さなじいさんと出会った。

つづき

「失礼ですが、おじいさんはここで何をしているのですか?」

髭をさすりながら彼はほい来たと言う顔でこう言った

「わしはこの山の精霊じゃよ。知らんのか?」

「知りません」

「そうか」

じゃあ教えてあげようとおじいさんは私の前にヘタッと座り込んだ

禿げたアタマを手でツルンとやりながら目をつむって

「そうじゃな。その昔、この山のほうぼうにはわしらの一族は住んでおったんじゃよ

それは愉快、平和じゃったよ。ところがある日、人間どもがわしらが

暮らしていた山奥まで来おってな、わしらを見たとたんにそりゃもう

大騒ぎじゃったよ。それからわしらは逃げるようにして、もっと奥の

山へと逃げてちりぢりばらばらになっしもうたわい」

私が耳を傾けてじいさんの顔をじっと見ていると

「わしか?ああわしは逃げんかった。わしはもう500年も生きちょるし

すっかり歳も喰ってしもうた。もうどうでもええと思って一人でこうして

暮らしているという訳じゃ」

私は夢でも見ているのか?と自問しながら耳をぎゅっとつねってみた。

「イタタタタっ」

「どうしたんじゃ?」

「いや、なんでもありません」

「おじいさん、いま精霊っていいましたけれど、そのせいれいって一体なんなんです

か?」

「ほいきた」

じいさんはニコニコしながら、また禿げたアタマをつるっとなでた。

「精霊っちゅぅのはな、簡単にいうとだな森の神様じゃ、なんと

森の神様じゃぞ」

じいさんは曇りがちな空を見上げ、細い目をした。

「神様なんですか?」

「そうじゃよ」

「わしらの仲間はその昔、空から降りてきたんじゃ」

「はぁ」

「空にはそのぅ大神様という偉いお方がおっての。その大神様の命をたずさえ

わしらはこの地に降りてきたという訳じゃよ。分かるかな?」

「あっ、はい」

「で、その大神様の命というのは何なんですか?」

私の質問に、精霊じいさんは大きく首を振った。

「それは言えんよ、大事な秘密じゃからなほほほほっ」

つづく

ナタリー

蒼い湖の底に漂う
水のような瞳に

ゆったりとした広い額が
美しい

そんな華奢な体の何処から
あなたの情熱はうまれてくるのか?

仕事でなく趣味ではなく
あなたは少女の頃から
或る一点をみつめて
生きてきた

コスモスのように奥ゆかしくも
どんな風雨にも耐えた強さと
可憐

恥じらいながらも迫ってくる
その情熱は
いまでもその炎を燃やして
生きている

何を捨てても進むことを恐れない

何が遮っても歩くことを忘れない

恋は時にうつろいやすいのに
あなたにどんなブレが
あるというのか教えて欲しい

いつも変わらず
絶えず笑みを忘れない

あなたはあなたのままで

そのままで

だからこの愛

これからも
いつまでも

※一見キザですが、ラテン語に訳してこの詩を歌ってみてください!
 サイコーです!

不思議な一日

霞がかかった秋の日の朝は

まるで春を思わせる のたりで

ちょっとあったかいのがうれしい

足は山へ奥へと進んでゆく

紅葉した葉に生暖かい風が通りすぎる

不思議な朝だった

霞は薄いカーテンのように

通り過ぎるとひとつひとつ

目の前の世界は変わり

林のなかの窪みにできた池に

小さな人間が泳いでいた

背の高さはざっと見たところ60センチ位だろうか

白い髭を顎にたくわえた禿げた老人だった

カラダに白い布を巻き付け

それが水に濡れて弛んでいるように見えた

彼はじっとこちらを睨むような顔をしていたが

私が「こんにちは」というとほっとしたような顔をして

白い歯をみせた

「どこから来たのかな?」

池の水で顔を何度か洗いながら

こちらへ近づいてきた

「えっと、そのぅ、気持ちの良い朝だったので
ついふらふらと家を出て裏山を歩いていたら
えーっとここに来ていました」

「ほほぅ」

「失礼ですが、おじいさんはここで何をしているのですか?」

髭をさすりながら彼はほい来たと言う顔でこう言った

「わしはこの山の精霊じゃよ。知らんのか?」

つづく

選挙

かあさんがつまらない愚痴ばかり
とうさんに言うものだから

俺が小さいときから
とうさんの話を聞いているうちに
俺は俗物となって
そこから抜け出すこともなく

今日も女房に下らない事を聞かされ
俺はあまり難しく考えないで
息子に同じ小言を言ったものだから

ははぁ
こいつも俗物になって結婚でもするのだろうな
娘も同じく結婚でもして旦那に愚ちるのだろうな

いま気がついた

見渡せば俗物ばかりの世の中なので

女は子供を産み
男は外へ出て
なんだか分からないうちに
ぐったりとして

これはおかしいと気がついた者が
立ち上がり
やがて社会というものを
少しづつ変えていくのかな?

何もない脳みそを動かしたところで
俺は相変わらず
今日もしこたま飲んでいる

俗物と知ったところで
何をしたらよいかさっぱり分からず
昨日は知り合いの和尚を尋ねたのだが
何をどう聞いたらよいのか
やはり分からず
近所の話や寺の本堂前の木の枝っぷりの良さを
話しているうちに日も暮れ
俺は飲み過ぎたお茶で腹をゆさゆささせながら
帰ってその話を女房に話すも
だからどうしたという顔で
夕飯の支度に忙しい

世の中なにも変わらないな

つくづく俗物の俺に気がついた俺は
明日選挙に行くのだが

はて?
何をどう考えて
一体誰を選んだらよいのか
皆目見当がつかない

知っている候補者の名前でも書いておくか?

いや、どうしたものだろうと
つくづく考える

若き者への伝言

まどろみの中から生まれたものは
明快ではないが新鮮だ

朝露を転がせた葉のように
みずみずしくさわやかでもある

振り返れば
青春という季節もそうだったように思う

なにかそのときにはハッキリしないが
やることなすことがとても虚しくもあるが
しかし、なにもかもが新しく そして
生々しかったように思う

想い、悩み、悲しみ、笑い

そのひとつひとつが どれも
激しく
踊るように動いている

青春というのは いや青というより
赤いもののイメージがつきまとう

それがやがては青くなり
白くなって
やがて枯れてゆく

いまという時代はある意味
大きな歴史のうねりなのかも知れないとも思う

こんなとき
みんなチマチマしないで勘違いでもいいから
維新のもののような志をもって
この壊れかけた世界をひっくり返すような
突き抜けた なにか新しい息吹を感じ取って

風のように走り抜けていただきたい

だが結果として
なにも変わらない まして
誰も相手にしてくれなかったとしても
そこにはあなたが生きていたという証が
心のなかに一生宿り続けると思う

たかが百年のいのちを大切にしたい

生きるとは燃焼しつづけること

そして

生きるとは死ぬことなのだから