夜を超えて

僕の胸の辺りを

兵隊さんが歩く

ザックザックと無言で

銃を抱えて歩いてゆく

こんなことなら

良くないことが起こりそうで

僕は街から出ることにした

兵隊さんが消えるまで

僕はいつかいこうと思っていた

あの山へ登った

悲しいだろ苦しいだろ

たき火を眺めながら

自分に聞いていた

慰めていた

そんなに疲れちまった

僕だから

たき火の向こうの漆黒に

薄汚れた映像を映しては

それを引っぺがしては

火にくべる作業が

三夜も続いた

そんな訳で

兵隊さんたちは

やっと消えたけど

残った燃えかすには

美しいものも

歓べる程のものもない

ことも分かった

僕は目の前に流れる川辺で

顔を何度も洗い

自分がどうしたいのか

何度も自身を確かめていた

河原で毛布にくるまって

その夜も空を眺めていると

とめどなく溢れる涙が

頬を流れていた

火が消えそうになる前に

僕は昨日と同じように

クルマに戻り

再び毛布にくるまって

朝まで眠りこける

きっと朝になれば

この空も

川のせせらぎも

鳥のさえずりも

そしてこの自分すらも

再び愛せるような

気がして

そうだ

街へ降りたら

まず最初に出会った人に

最高の笑顔で

挨拶をしてみてはどうか

そんなことを考えながら

再び消えた火の前に

うずくまる自分がいた

昭和

山の麓の農家から

煙がたなびいて

秋の白いそれは

色に染まる木々の間に

横たわる

僕は

友達の家の庭先になっている

あけびを頬張る

「美味い?」

友達がのぞき込み

僕は

「いや、美味くない」

と答えていた

僕たちの遊び場は

友達の家の前に広がる

ブルトーザーが削った山

家がいっぱい建つという

幼いながらに

この景色は

もう見えなくなるんだろうな

そう思った

空が朱に染まり

トンボだって

沢山群れて飛んでいた

その友達が

先日亡くなったとの訃報を

受けた

あのとき

庭先に

夕方のテレビから

音が溢れていた

僕はいま

そのときの音楽を聴いて

せめて君を弔うことにしよう

やはり

あのときの歌も

泣いていたんだね

想い出

(喧嘩のあと)

ねぇ、こっち

私の目を見て話してよ!

いや、そうじゃなくて

いま僕は

将来を語っているんだぜ!

ふたりの未来

そういうときにどうして

あの

奇跡的に美しい雲を見ないで

話せるかって

いうことさ

君の目は

そう、イカしてるけど

いまはいいや

な、あの雲を見てみなよ

(彼女は顔を上げ

空に目をやると

西に浮かんでいる

陽に光る雲を捕らえる)

あっ、きれいね!

そうさ

僕はいまあの雲のことで

頭がいっぱいなんだ

だけどだよ

あの中に君がいてさ…

えっ! 
じゃあいいわ

続けて!

(手を繋いだ日暮れのシルエットは

長い影を落とした

やがて光る雲も消えて…

その日のふたりは

やがて

月明かりに照らされても

終わらない

語り尽くせない日だった)

遠い想い出

(ふと思いだしたあの人とのこと)

楽園

野辺の草を踏むと

一斉にバッタが飛び立った

手を付いて土手を這い上がると

目の前に無数の知らない虫たち

もう秋だというのに

Tシャツは汗ばんでいた

久しぶりにデイパックをぶら下げ

川辺へ出かけた

斜面を登ると

丹沢山塊の端の山々に

うっすらと白い雲が乗っている

頭上の空は青く済んでいる

コントラストの強い風景だった

川面に水が流れ

思いの外澄んだ水の上を

赤トンボが何匹も群れている

その下を黒と赤の鯉が

ゆうゆうと泳いでいる

川沿いに歩いていると

バッタが次々に舞うように飛ぶ

彼岸花の赤が青空に映える

ずっと歩く

陽差しのなかを歩く

枯れた草と

青々とした草に目をやりながら

僕は赤トンボが飛んでゆくのを

ずっと眺めている

田園の向こうに

陽に陰った森が

黒々と鎮座する

春のような景色だと思った

夏のように暑かった

秋の赤い彼岸花

ここは楽園だと

僕は思った

落ち葉

それは落ち葉のこすれる音を

考えているときだった

気持ちを集中して

僕は落ち葉の目の前にしゃがんでいる

冬の公園だった

さ、もう少しで聞こえるぞ

カサっていうのだろうか

シュッって糸のようなこすれた音なのか

いや、落ち葉は黙って風に吹かれて

離ればなれになって…

その葉は何色で

黄色?

枯れ葉色がいいのか、

気持ちが地面にズームして

もう僕はコガネムシの幼虫になって

このいきさつを見て

聞いてみようと思う

そう決めたのだ

そんなことを

ふと15分ばかり考えていたら

エアコンの音が僕を邪魔するので

僕はその情景を消してなるかと

そうさ

部屋のすべてのスイッチを切る

が、

僕はもう二度と幼虫にはなれなかった

脳裏には冬の立木が風に揺れていた

地を這うように考えた構図

まるで巨大に形づくられた二枚の落ち葉が

アタマの隅のファイルに保存されることとなり

この詩は終わった

さて

無音の世界で

僕は空虚になり

タバコをふかし

友達に手紙を書くことにしよう

こんなときはジャミロ・クワイか?

踊るリズム

最高のメロディーライン

止まったエアコン

パソコンの小さなファンの音

もう落ち葉の音を聞くこともないだろう

まして

落ち葉のこすれる音なんて

もう考えることもないだろう

落ち葉はそんなこんなで

みんなに忘れ去られて

この地上から

いなくなるのさ

考えてみれば

それは

僕という存在そのものでもあるのだが…

銀河の旅人

僕はある日
自分が通り過ぎてゆく存在だということを
知ってしまった

通り過ぎてゆく存在

そして
不確かな存在

驚くことに
それは君も実は同じ存在だった
ということだ

唐突な話でゴメン

だけど
これが僕たちの真実なんだ

そう
君も僕も旅人なのさ

君は一体何処へ向かうの?
と聞いたところで
いまのところ
私の質問に
君はまるで
ちんぷんかんぷんだろう

僕はと言えば
もうかれこれ
5億光年の旅をしていると言ったら
君は笑うだろうな

僕の命は
あと3億光年位だと言ったら
君は怒るのだろうか

しかし君は
いつか時空をめざして
旅立ってしまうということを
君自身すら知らない

とりあえず
この話しは
君にはしないでおこう

ただ
僕らはこうやって出会っている

このことは
銀河の向こうの
記憶の泉に
生まれ変わりの物語を
書くために
欠かせないことなんだ

僕が僕であるために
君が君でいることを
忘れないために

そしてお互い
愛で光が満たされるように

この記憶を携え
遠い世界で
再び出会うために

銀河は今夜も輝いているんだ

確かな日、のために…

明日などというものは

ホントは来るか来ないか

分からない代物だから

僕らはみんな考えてしまうのだ

だから夜明けの眠りにつくとき

僕らは祈るんだ

再び目覚めますように

とね

昨日などというものは

ホントはあったかどうかも

分からない思い出ばかりだから

僕らはみんな考えてしまうのだ

だからふと過去を振り返るとき

僕らは悲しいんだろうな

自分は嘘つきなんじゃないか

とね

たとえ今日という日が

特別な日でなくても

おいしいコーヒーを入れて

かけがえのない本から

とびきりの言葉を選んで

そして

森へでもでかけよう

確かなことは

確かなものは

今日この日

このとき

この気持ち

この空

流す涙

ふと溢れる微笑

そして

風に吹かれて

掴める実体

生きている息づかい

僕らは

ここでしか

生きてゆけないから

そう

僕らの居場所は

今日という日なのだと

思いたいのだ

私という存在

私はどこからきたのか

教えて欲しい

瞬きほどの

時を紡ぐ生は

そして何処へ行く

なぜ旅立つ

この星

この深遠な宇宙

そしてこの空に

輝く星座

春は川の流れ

夏の太陽

枯れ葉色の

秋の夕暮れ

冬の朝の白い息

この体で笑い

苦しみ

この体で泣き

夢をみる

この世界の想いは

私に何を教える

生命を宿すこの力

生命を絶つこの力

この星の想いは

誰の意志なのか

そして

私はどこからきたのか

いまこのひとときも

死への旅立ち

それでも

生きている

時が流れる

心は叫んでいる

万物は

生まれる

そして

総ての生は

旅立つ

なぜ私は生まれたのだろう

なぜ私は死ぬのかな

この星

この深遠な宇宙

そしてこの空に

輝く星座

その彼方に

きっと

その答えが

あるのだろう

19歳の旅

言葉のかけらが降りてきては

それらがまとまらず繋がらない

ため息を吐くとふっと消える

窓ガラスの向こうの夜の空に

言葉がぶら下がっている

超能力でその言葉と交信してみたが

どうもいまの心境じゃない

違うんだよな、と思った途端

そのぶら下がりが地に落ち

きらきらとした都会の夜景は

色あせた

今度は時空を越え

あの頃のクラスメイトと会話を

交わしていると

やはりお前もかと言い

舞台はあの夏の日の話になる

あの夏の日

地元のチンケなガキが

アロハシャツをはだけて

喫茶店からたばこをくわえて

かったるそうに出てくる

もう何もやることがないな

蝉さえ鳴かないようなこの暑さ

この街

人もまばらな通りに

ふたりの目を引く張り紙があった

「豪華船旅でゆく沖縄」

アジア航空という会社がどういうものなのか

ふたりには興味がなかった

店内

話を聞いているうちに

どうせ暇だし、行ってみようかということになり

書類にサインをする

次の日から金を工面するため

横浜の港ではしけの荷運びの仕事をする

カンカン照りでの昼飯はビニール袋に入っていた

白飯とお新香と梅干し

コーラを飲みながら腹に飯を詰め込み

夕方ふたりはぼろぼろになって

金を手に電車に乗る

出発

竹芝桟橋で新・さくら丸に乗船する

本州の陸地に沿ってずっと航行を続ける

デッキで潮風にあたり

ビールをラッパ飲みしていると

吐き気がしてきた

初めての船酔い

船室に戻って寝込みながら

考えた

この先、俺たちは何処へ行こうとしているんだろう

一体、何をしようとしているのか

考えたが目眩がして

寝るしかない

ふたりで吐くのをこらえて

寝ることに集中した

二日目の朝

ふたりが船室の窓から

見たものは

いままで見たこともない

海と空の色

それは

夢のような夏の色だった

19歳の旅はこうして始まったが

あのチンケなガキの片割れはいま

川崎のとある会社の社長をしている

先日、半年ぶりに奴と話す機会があった

コスト、対中国市場の可能性と半導体デバイスの

展望について

「いまオレが社員のリストラ計画を作っていて

リストに出す名前を見る度に

うんざりするんだよな」と話し

もう嫌だよと吐き捨てた

戻りたいよな

あの頃に

相づちしか打てない

「19歳の旅」

そして

地元じゃ負け知らずのふたりが

横浜を出たのは

調度同じ頃だったような記憶がある

それから連戦連敗

やはり世間は広いと思った

東京で毎日続く他流試合

仕事そして子どもを育てて

生きてゆくということ

外の辛さが身に染みた

2杯目のコーヒー

なんとなく言葉がみえてきた頃

道に足音が聞こえる

夜が明け

いつもの喧噪が始まるのか

窓の外には

もう消えそうもない言葉が

浮かんでいる

洗面所でうがいをして

デスクに戻っても

たばこの煙を眺めていても

ついにその言葉は

消えることがなかった

コートを羽織って

外に出ると

暗がりの街並みの向こうに

薄い紅の空が

少しづつ

ゆっくり

広がりはじめ

星はうつろい

月はぼやけて

言葉だけが

輝いていた

もう一度だけその言葉と

テレパシーを試みてはみたが

憂鬱になることもなく

気が削がれることもない

それは

ビルの屋上の上にあっても

山の頂にあっても

色褪せることなく

私を魅了する言葉

19歳の旅

私の物語

19歳の旅ははこうして始まった

19歳の旅はここから綴られるのだ

そう

誰だって過去に生きられる

誰だって未来を夢見る

その言葉は

生きていることが

愛おしいことを

さも当たり前のように

語ってくれる

沈殿

土壺の深い底で

這い上がることのできない

おとこがずっと見ていたものは

世間のつまらない縁取りだった

ざわつく欲望と札束で

頬を叩かれた

人前で

またある時は

あの人と向きあっって

それしらい事を話さねばならぬ

振る舞いも嘘だらけだ

と思った

「ならぬ」が追いかけてきて言うには

お前は完璧だろ?とつまらない事を聞く

あなたの眼は節穴ですか?

何も話したくないですね、

と「ならぬ」に返す

私は閉じこもっていたいと

思った

なんどきも自分の周囲をグルグルと廻っている

汚いサタンを葬り去らない限り

きっとこのまま

真っさらな自分という人間とは

出会えないような気がしたので

いっそ、サタンを殺すことにした

土壺の深い底に立ち

縁を見上げると

空が見える

風が吹いていて

長い枝から伸びた新緑が

のびやかに揺れている

這い上がる力がない訳ではないことは

誰より自分が知っている

孤独が好きだと言えるほど

強くもないし

望んでもいないのだが

しかし

語るものがおとぎ話ではいけない

せめて血と肉と

私の体を通り過ぎたものが

欲しい

じっと

座して伏して

暗闇のなかの正体を知る

いまは

目をつむって眠りにつこう

果たして

消えた夢

沈殿した夢のなかの風景は

いつもいつも

一点を凝視している

悲しいくらいに愚直な

18歳の私だった