甲斐犬
ホームセンターに用があって出かけた。
広大な建物なので目的のものがなかなか見つからない。
ふと、ペットコーナーの前を通り過ぎる。
見れば、ガラスで仕切られた狭い場所に、
幼犬がそれぞれに落ち着かない様子で、こちらを見ている。
皆、文句なくかわいい。
がしかし、不安になる。
それは、体が大きくなってしまった一匹の黒い犬の姿だった。
どの犬も、そもそもそんな檻にいてはいけないと思う。
とりわけ、その黒い犬は、反抗的な目でうろうろしている。
黒い毛並み。日本オオカミのような容姿。
「甲斐犬」と名札に書いてある。
甲斐犬といえば、狩猟犬だ。
ふさわしくない檻に閉じ込められているのが、
痛々しい。
その反抗的な目に、愁いが滲み出ている。
怒っているのか、泣いているのか。
きっと、甲斐犬の血が、
まだ見たことのない南アルプスを懐かしんでいる。
198,000円の甲斐犬。
彼は、この先、きっと誰にもなつかないだろう。
モーニング
先日は、息子の結婚式で、
人生初のモーニングというものを着た。
タキシードではなくモーニング。
試着のとき、チャップリンを思い出した。
ペンギン姿のアレだ。燕尾服。
我ながら、ちょっと笑える。
が、本番の日にそんな余裕はなかった。
ダブルカフス、ウィングのスタンドカラー、
シャツバンド、サスペンダー。
普段は使わないものを身に付けたので、
どうも居心地が悪い。
式場への行き帰りも、
久しぶりにスーツにレジメンタルタイを締めたので、
どうにも疲れる一日だった。
後で聞いたら、奥さんの留め袖の着付けと髪結いは、
更に大変だったらしい。
が、この日の主役は、当の新郎新婦たち。
本当にお疲れ様でした!
クリスマス
私の住む住宅地の隣は新興の住宅街で、
新築の家が建ち並んでいる。
若い人が多いのだろう。
夜、クルマで通ると、
早々と、クリスマスのイルミネーションが光る。
サンタ、トナカイ、星のカタチをしたものが、
夜の住宅街に映える。
この季節になると、
小さい頃、毎年、
お袋に連れられて出かけた横浜の商店街を思い出す。
街は、歳末大売り出しとかで、人でごった返している。
お菓子屋に、キラキラした赤と白の長靴が、
幾つもぶら下がる。
ジングルベルのメロディーが割れた大音量で流れ、
ガラガラポンの抽選会に、ぞろぞろと人が並ぶ。
お袋は大量の買い物を済ませると、
最後に必ず私に、
新しいジャンパーとサンタの長靴を買ってくれた。
先日、息子の結婚式の翌週は、
お袋の一周忌だった。
お経を聞きながら、
それは悲しいというより、或る安堵感だった。
あまりにも慌ただしい年だった。
それが、今頃になってふと寂しさが忍び寄る。
これも人生の節目のひとつなのだろう。
