或る日
この日ばかりは、仕事を放り出して、丹沢でたき火。
メンバーは、たき火歴30年の湘南の画家S氏と、
某キャンピングカー雑誌編集長と我が息子の総勢4名。
紅葉真っ盛りの丹沢湖でひと息吐いたあと、改造クライスラーのバンと
海外製キャンピンカーとくたびれた赤いボルボの3台が山中を行く。
「落石注意」の悪路を慎重に行く。途中の湧き水スポットで、S氏が
ポリタンクで水を汲む。コーヒーには最高、とのこと。
S氏曰く、丹沢のなかでもここは最高、のシチエーションスポットに
辿り着く。
急勾配な斜面からは、時折小石が音を立てて落ちてはくるが、
眼下を流れる清流の音が心地よい。
あとは、木々が風に揺れる音と、鳥のさえずりのみ。
ケータイの電波なし。で、一同ほっとする。
たわいない話がとても心地よく、気がつくと辺りは真っ暗。
冷え方も半端なく、足元からしんしんと冷気が漂う。
闇のなかのたき火は、一種幻想的でもあり、じっと見つめていると
心身がほぐれてゆくのが分かる。
みんなでけんちん汁や中華まんじゅうを喰い、紅茶で体を温める。
この夜は曇り空で、星はうっすらしか見えない。たき火を離れると、
もののけの気配? いや、明かりに慣れすぎた生活への反省しきり。
或る日
湘南の某ホテルの一室で、或る企画に則った参考メニューの試食会。
テーブルの上に、和・洋・中華の特注料理が勢揃いすると、これらが
低カロリーかつ薬効の効いた薬膳とは、一見して分からず。ボリューム感も
それなりにたっぷり。
本物のヘルシー食の神髄を見たような気がする。
各料理長の説明に、ケータイで音取り。何枚も写真を切るも、
食材とその調理法を聴くにつけ、この料理のプライスが気になる。
ひとつひとつを吟味するも、すべてにおいて味は淡泊。中華の八角と、
イタリアンの冷製スープが出色の味だった。
帰り際に見た夕暮れに、富士山のシルエット。すかさずカメラに収める。
が、帰路腹が減り、性がないので通りがかりの一口茶屋のお好み焼きで
腹を満たす。あ~、味の落差が激しいな。
或る日
健康診断の結果、目の異常が記されていたので、一応検査のため眼科へ。
事前にネットでチェックするも、緑内障の予備軍のような記述しかみられず、
かなり気分が落ち込んでいた。
視野検査というものを受けるも、かなりこの中身が、目には辛い。
片眼ずつ、じっと箱のなかの光をひたすら追いかけ、そのたび毎に、
手に持たされたスイッチを押すという作業を延々と続ける。
まばたきをすると、一瞬の光を見逃すとかで、極端に目開き状態を続ける。
涙がボロボロと溢れ、終いには気分が悪くなり、頭痛さえ起きてくる。
看護師さんに事前に「この検査ってとても大変なのよ」と言われた意味が、
検査後につくづく分かった。
が、結果はいまのところ異常なし。でほっとするも、
今後もこの検査を定期的に続けなさい、とのこと。再び嫌な気分になる。
或る日
休日。早朝の散歩に出ると、快晴。朝日がまぶしい。今日は残り仕事を
しようと思っていたが、急きょ予定を変更し、出かける支度をする。
奥さんを連れて、東丹沢のしっぽのような低山のハイキングに挑戦。
うっそうとした、樹齢200年もあろう大木の間の急坂を歩き始めるも、
いきなり太ももが痛くなる。(あ~日頃の運動不足が悔やまれる)
が、ここで引き返しては、この晴天に申し訳ない。無理矢理歩き続ける。
辺りが雑木林に変わると、木漏れ日がきらきらと光る。
足も慣れてくると、今度は息が上がってくる。喉が渇く。
山の中腹にある神社でお参りしたあと、社内の湧き水をがぶ飲み。
また、ひた歩く。と、落ち葉をひきつめたようななだらかな道で、
思わずはしゃいでしまう。踏みしめる毎にしゃりしゃりと落ち葉の音。
こんな素敵な道を歩くのは、覚えている限り、神宮外苑のいちょう並木
の下を歩いて以来、ん十年ぶり!
途中、チョコやクッキーを補給しながら、展望台に到着。
快晴の空の向こうに、新宿の高層ビル群や横浜のランドマークタワーが見える。
思えば、ムカシはあっちからこっちをよく見ていたことを思いだし、
奥さんと感慨に浸る。
下山すると腹が無性に減り、ケンタでフライドチキンにむしゃぶりつく。
やはりダメだな、
ストイックでスマートなおっさんにはなれそうもない。